雑食エンジニアの気まぐれレシピ

日ごろ身に着けた技術や見知った知識などの備忘録的なまとめ.主にRaspberry Piやマイコンを使った電子工作について綴っていく予定.機械学習についても書けるといいな.

Flsun prusa i3にレイヤ冷却ファンを取り付ける

ここ最近3Dプリンタの改造のエントリばかり続いていますが,今回はレイヤ冷却ファン編です.
(名称は結構ばらつきがあって,プリント冷却ファンとか呼ばれたりもします.)
ノズルのすぐそばに取り付けられている,プリントしたものを即時冷却するためのファンです.
このファンは割と重要だと思うのですが,何故かFlsun prusa i3には搭載されていないので,マウンタなどを作って取り付けていきます.

まずは例のごとく完成品から.

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レイヤ冷却ファンを取り付けたホットエンド

レイヤ冷却ファンの効果

冒頭にてレイヤ冷却ファンが結構重要という旨を書きましたが,はじめにメカニズムを整理しておきたいと思います.
FDM式の3Dプリンタは樹脂を熱で溶かしたものを押し出し,それが再度固まることで造形を行っています.この時の再固形化はフィラメントの温度が周囲の温度に合わせて低下していくのに合わせて徐々に固まっていくことになります.そのため,完全に冷め切る前に重力の影響を受けると形状が若干変わってしまいます.特にブリッジと呼ばれる,下にサポート材がない状態での造形にてそれが顕著になります.

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ブリッジの例.赤丸部分は液だれが起こっている.

レイヤ冷却ファンはこの温度変化をシャープにすることで,液だれが起こる前にフィラメントを固めてしまおうというものになります.
なおメカニズムはこんな感じなので,レイヤ冷却ファン以外にも下記のようなことが有効だと考えられます.

  • ノズルの温度を下げる
    • フィラメントが固まるまでの時間が短くなります.よく推奨温度の下限が良いと言われているのはこのためですね.ただし温度を下げすぎると,層間の結合がもろくなり積層痕や強度不足につながります.
  • 3Dプリンタの囲いを外す
    • 周囲の温度が下がるので,フィラメントが固まるまでの時間が短くなります.Flsun prusa i3はもともと囲いがついていないので,レイヤ冷却ファンが不要だったのかもしれません.
  • ベッドの温度を下げる
    • これも同様です.ベッドに近い方が周辺温度が高くなりがちのため,より床面に近い箇所のほうがブリッジ性能が悪くなるということもあります.

このようにブリッジを改善させる方法は色々ありますが,囲いを外したりベッドの温度を下げてしまうと,今度はビルドプレートへの定着が外れてしまうという大惨事を招きかねません.
レイヤ冷却ファンは"周囲の温度を変えずに,ノズル先端の温度だけを下げたい"という要求を実現するための方法というわけですね.
もちろん,レイヤ冷却ファンにもデメリットはあります.

  • 風がビルドプレートにあたってしまい,一層目の定着が外れてしまう
    • 特にABSのように熱変形量が大きく剥がれやすい樹脂で顕著です.これは大抵,"スライサの設定で最初の数層だけファンを止める"みたいな設定で多少対策できます.
  • 風の影響でもろい構造が変形してしまう
    • 層間結合が弱いところなどは,風で吹き飛ばされてしまったりします.それにより構造が崩れたり,糸引きが多くなることがあります.
    • 一般に最初の層以外は風量MAXで運用することが多いようですが,この理由により多少風量を抑えた方が造形がうまくいくことがあります.
    • ノズル温度を上げても対応できますが,それって本末転倒では?って気もしてます.どうなんだろ.

レイヤ冷却ファンの導入

理屈はこの辺にして,実際に組み込んだ際の過程についてまとめていきます.
今回使用したファンはコチラです.
www.amazon.co.jp レイヤ冷却のような用途では,シロッコファンではなくこういった形状のファン(ブロアファン?)が良く用いられている印象です.多分風量が強いため.
ファンの先端にはノズルの先をうまく冷却するためのガイドのようなものをつける必要があります.これの設計を本気でやろうとすると流体力学的な知見が必要なんだろうとは思うのですが,要はある程度風が当たればよいだけだと思うので,"現物合わせでそれっぽくしただけです".Try and Errorを即繰り返せるのが3Dプリンタの強み!!

こんな感じで関連するユニット全むモデル作って組み合わせて,先端の位置や角度を少しずつ調整して試しました.多分6,7個くらい試したかなと思います.

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ノズルのフロー先端調整用モデル

先端の細くなっている部分は1.4mm×3.4mmの隙間が空いてます.ここの外形は3mm×5mmなので,壁厚は0.8mmですね.0.4mmノズルなので,2ラインは確保したという感じですね.1ラインだと造形に失敗する気がしてやめましたが,ドラフトシールドとか1ラインで作られるので,意外といけるのかもしれません.
ちなみに先端の部分の長さは10mmで,角度はビルドプレート平面から20°傾いています.この角度を急にしすぎるとヒートブロックに触れてしまいますし,緩やかすぎると先端に風を当てるのが難しいので厄介なところですね.

調整と結果

とりあえずこれでセッティングは完了したので,色々風量を変えて造形していきました.結果としては,MAX60%が私の環境としては良さげでした.
他はそんなにしっかり調整してないですが,最初の3層目までファンは最小で回して,以降60%って設定でやっています. なお,curaのファン設定はYan様の下記が非常に詳しいので,参考にさせて頂きました.
【CURA Tips】ファン速度に関する考察|Yan|note

で,結果がコチラになります.

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レイヤ冷却ファンの効果比較

FDMTestのブリッジ部分での比較ですが,一目瞭然ですね.これくらい変わります.
でもこれ,FDMTest的にはスコア変わらないんですよね.えぇー...

あとよく見ると,Afterの3本目あたりに割れっぽいのができてしまっています.これが冷却によって構造が壊れる一例なのかなと思ってます.ちなみにファンを100%で回して試した時はこの部分が完全に断裂してしまっていました.

なお改善を期待していたオーバーハングは最上部でどちらも乱れてしまっていて,特に改善なしでした.ファンを100%で回した時も変わらずでしたね.んー,残念.どうすれば改善するんでしょう.

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オーバーハング比較

まとめ

こんなところでしょうか.少なくともレイヤ冷却ファンはブリッジに対してかなり効果的なので,そのあたりを改善したい方は導入してみるとよいと思います.

これでやりたかった改造は一通り完了したので,次回はこれまでやった改造をまとめたいと思います.今回チラッと出しましたが,初期に比べるとFDMTestの結果もかなり改善してますので,そのあたりも.
それでは.